入浴による自律神経の調整

 

 入浴はなぜ体にいいのでしょう?体を温めることで血行がよくなる、汗を出すことで代謝がよくなる、などが一般的ですが、一番大きな効果は日中で興奮した神経の高ぶりを抑制させることです。よく自律神経といいますが、自律神経とは昼間は交感神経によって体を活発にさせ、夜は副交感神経によって体を緩める、この2つの神経の交代作業のことをいいます。

 昔なら昼間の明るいうちは活発に、夜で暗くなったら緩んだ状態にと、自然の変化に合わせて体も変化ができました。しかし、今は夜でも蛍光灯の灯りで昼間のような状態です。これでは体はいつ活発な状態を終えて緩んだらいいのか、判断が難しい状態になっています。自律神経失調症とは、こうした2つの神経の交代リズムが狂ってしまった人のことを言うのです。

 そこでお風呂の登場です。42度くらいの少しぬるめのお湯に浸かっていると、高ぶった神経がだんだん緩んでいくので、自然に副交感神経へと体が移行しやすいのです。神経の高ぶった状態で睡眠に入るのと、緩んだ状態で睡眠に入るのでは、朝の寝起きの回復度の違いは容易に想像して頂けると思います。入浴は現代人の失調しやすい自律神経を調整する役割を果たしているのです(シャワーは×)。

 入浴は、温度はぬるめで、長時間入っていることが理想です。長く入れないという人は、神経の高ぶった状態に慣れすぎていて、緩むことを「不快」に感じるので長く入っていられないのです。そういう人ほど、最初は我慢して長く湯に浸かって下さい。この時に、手も湯船に浸けることが大切です(手が緩むことが重要なので)。ちなみに、朝起きて体が動かないという人は、熱い湯に入れば体が活性化します。


 

汗のかき方 良し悪し

 

 「私は汗かきです」という人がよくいますが、そういう人はたいてい、汗をかく時は胸や背中、首まわり、顔などの限定した範囲でばかり汗をかく人が多いです。これは本来、体温調節のために全身から出るはずの汗が、上記の局所からしか出なくなっており、全身分の汗がそこに集約するので「よく汗が出る」と錯覚しているのです。

 これは先の「交感神経」が関係しますが、神経が高ぶる時は、体は末梢の血管を閉じることで、主要な血管に血液の流れを集中させます(手足は末梢に属します)。活発に動くために隅々まで血液を流さず、代わりに全身に早く循環させる、という仕組みです。末端冷え性という方は、たいていこれに属します。これに汗腺が同調して、手足などからは汗が流れにくくなるのです。

 入浴によって先のように体が緩んで(副交感神経)いくと、全身の隅々まで血液が緩やかに循環するようになるので、この状態では汗は全身から分散されて出るようになっています。ただ本来は、日常的に全身から汗をかけることが理想なので、長い入浴は知らず知らずのうちにそうした訓練になるのです。ただ問題は、いくら入っても手足から汗が出ない(温まらない)という方です。

そういう方は、神経の高ぶりが強すぎて、入浴でも自律神経が切り替わらないのです。強制的に切り替える方法としては、手足を集中的に温めることで、手足を湯船の底につき、温度を高くします(45度前後)。これは手足が熱ければいいので、体を出す、お湯を減らす、などして構いません。手足が緩んで副交感神経に切り替わった瞬間に全身からどっと汗が出ます。ただ、心臓の弱い方はご注意下さい。


 

一般的な入浴方法について

 

 入浴ではよく薦められるのは「半身浴」です。温度を低めにし、胸が浸かるか浸からない程度で長時間入る、という方法です。これがいいとされる理由ですが、熱いお湯では神経が高ぶりやすいですし、温まった感じはしますが、体の深部まではなかなか温まりにくいのです。体に無理のない温度で緩やかに温めるのがいいのです。手を湯につけると早くに体が温まります。

 「胸まで」「腰まで」という理由は、胸を浸けると心臓に水圧がかかり、心臓の圧迫によって血液の流れが分散するので、それを避けるためです(高齢の方や心臓に心配のある方は注意が必要です)。もう1つは肩を出すことで体内の熱を逃がす場所を増やし、体温調節を容易にすることです(のぼせない)。半身浴の目的は「無理なく体を芯から温める」ことにあります。この結果、自律神経は調整され、全身の筋肉は緩み、全身から汗の出る代謝のいい体へと変わっていくのです。

 半身浴は、そもそも欧米式の入浴法なので、日本人では合わない人も多くいます。日本的な入浴はやはり「熱い湯に肩まで浸かる」ですが、これは、神経の高ぶった状態を熱い湯に長く入って更に高ぶらせ、反発で神経を緩めようとするものです。熱い湯に我慢して入っている間は体が極度に活発になりますが、湯を出た途端に開放された安心感も手伝って、神経は急速に緩んでいきます(神経は活発になりすぎると逆に下がろうとします)。

  これは、銭湯に行ったことがある方なら、入浴後のすごい脱力感に覚えがあると思います。効果は大きいのですが、半身浴より体への負担は大きいので、無理に実践することはお薦めしません。実際にはその時の疲れに応じて、使い分けていくのがいいと思います。


 

温度の低い入浴

 

 入浴の目的は「温める」こと、と思われがちですが、「水浴療法」という健康法もあります。人間の体は水に浸かっているだけで自然にリラックスします。リラックスすると、神経の高ぶりによって緊張していた全身の筋肉が緩みます。全身の筋肉が緊張している時は、血管の筋肉も一緒に緊張しているので、血液の流れも悪いのですが、これが緩むと血液がよく循環できる状態になります。

 「体が冷えている」ということは、緊張によって血液が流れにくい状態にあるということです。血液の流れがよくなれば、体は自然と温まります。本来、「入浴で体を温める」というのは、この神経的な緩みによって、体を自然な循環の状態に戻すことを目的とするので、温度による体温上昇は二次的な効果なのです。

 温泉の中には、温水プール程度まで温度の低いものがあります。温度が低いので体が温まるまで時間がかかるのですが、この温まりこそ、体が緩んで自然に循環したことで起こる「体の自発的な温かさ」です(もちろん薬効成分なども関係しますが)。つまり温度が低ければ体が温まらない、ということではないのです。温度に関係なく、体が温まらないというのは、神経的な緊張が緩まないことによるものです。

 これは、日常の入浴にも応用できます。温水プールに入るつもりで、自分が「ずっと入っていられる」と思える温度で入浴します。この場合は、寒ければ首まで浸かって貰って構いません。体が緩むとぬるいお湯でも熱く感じてくるので、その場合は更に温度を下げます。これを続けると、相当にぬるい温度でも体が温まります。湯の熱さで体が温まると、どこまでが「体の自発的な温かさ」なのか分かりませんが、この方法では自分で確認ができるのです。