運動の基本

 

 運動の基本は「バランスよく全身を使う」ことです。これさえ実践していれば激しい運動を行う必要はありません。ただ誰しも自分の体の使い方に「クセ」が強いため、どうしても得意・不得意の偏った動きになってしまいます。こうしたことを避けるためには運動の種類を「全身を均等に使うもの」として選ぶのが理想です。

 この全身運動とは「歩く」「走る」「水泳」などで、全身を同時に動かすことで全身の代謝も高まります。ただ、こうした運動を行えば全てが全身運動になるというわけではありません。「歩く」を例にすれば、誰しも歩き始めは体が温まっていないので全身がしなやかに動かず、動かしやすい局部に頼る「偏った運動」になっています。これが20分ほど続くと全身が温まってくるので、それ以降は全身がしなやかに動くようになります。

 これはおよそ20分未満の運動は効果が低く、20分を越えたところからの運動は効果が高いということです。こうしたことから歩く場合はその理想の時間は40〜60分と言われます(休みながらでも構いません)。運動することはいいことですが、それが短い時間ばかりでは結果的に偏った運動として体のバランスを崩しやすいものとなってしまうので、定期的に長い時間の運動を行うよう心がけて下さい。

 運動の本当の目的は「体を鍛える」ことではなく、「体をしなやかに使う」ことにあります。いくら筋肉を鍛えても、体がしなやかに動かないのではすぐに疲れが溜まってしまいます。全力で行うよりも、常に気持ちの余裕を持って行うくらいの方が、結果的に健康な体を作ることに繋がっていきます。



 

労働性疲労と運動性疲労

 

 一口に疲労と言っても疲労には「労働性疲労」と「運動性疲労」という区分があります。「労働性疲労」というのは仕事や家事などの疲れですが、誰しもこうした動きでは「あまり疲れないように」と、無意識に動作を小さく行おうとします。これは動作の時に全身を使わないことによる局部的な疲労に繋がっていきます。

 これに対して「運動性疲労」は字の通りに全身を使った場合の疲労です。これは全身がだるくなるような「心地よい疲労感」と思って下さい。多くの方が日常に感じる疲労感はこのうちの「労働性疲労」によるもので、いつも同じ使い方をしていることによって疲れが偏ってしまっている状態です。肩こり・腰痛などもこうした「労働性疲労」が原因になっているものは多くあります。

 どんな動きでも、その動作を行う時に全身を使っていればその負担・疲れが全身に分散されるので、一箇所一箇所の疲れが少なく回復しやすいのですが、動作を小さくしようとして部分的に疲れを溜め込んでしまうと、結果的に体は回復しにくくなってしまいます。こうした「労働性疲労」は休んでもなかなか回復はしませんが、逆に運動することで「運動性疲労」に変えてしまうと速やかに回復します。

 なかなか抜けない疲労感の多くは実際には全身が疲れているのではなく、部分的な疲労によって体がうまく動かなくなっていることによるものです。こうした場合は運動などで全身を動かして体が「均一」に動くようにすることで解消できることが多いものです。「疲れているから」と休むよりは、まず全身を動かして偏った疲れを全身に散らすことを優先させてみて下さい。



 

丁寧に体を使う

 

 ヨガや太極拳などをやったことがある人は分かると思いますが、運動はゆっくり行うと速く行う時より数倍疲れるものです。これはゆっくり行うと、普段使わないような細部の筋肉まで、全部を使うことになるからです。逆に「早い動き」というのはごまかしがきくので、誰しも「うまく出来ている」ように感じてしまうものです。ゆっくりというのは「丁寧に体を使う」という意味を持ちます。

 どんなスポーツをやっている人でも、その動きを正しく行えているかはその動作を「ゆっくり」やってみると分かります。ゆっくり動くと自分の体のどこがうまく使えて、どこがうまく使えていないかが分かるのです(歩くなどでも同じ)。これは日常動作でも同じことなので、どんな動作もゆっくり行う習慣をつけると「体を丁寧に使う」ことに繋がっていきます。

 特に体操などをやっている人では「私は体操をやっているから健康」などという勘違いが起こりやすいのですが、どんな動きも正しく行うのでなければ意味がありません。逆に偏った使い方を訓練してしまえば、体操をしていることで健康を害してしまうことにもなりかねません。ゆっくり行うことに加えて目をつぶって自分の体の動きに集中すると、自分の体の使い方をよく確認することがきでます。

 これは体を動かす時にその動きを「味わう」というものです。目で鏡に映る自分の動きを確認するような「外からの感覚」ではなく、目を閉じて自分の内部感覚だけで自分の動きを感じ取りながら訓練することで、体を思うとおりに使うことができるようになっていくのです。


 

ストレッチについて

 

 自宅で行う運動としてストレッチを行う人は多いですが、ストレッチほど注意が必要な運動はありません。これまで説明したように運動は全身を動かすことが重要なのですが、ストレッチは関節を1つずつ動かしていくために、どうしても偏った動きになりやすいのです。体はどこか一部分だけ柔らかくすると、他を硬くすることでバランスをとってしまいます。

 例えば股関節のストレッチでは、股関節ばかりを柔らかくしようとすると、股関節が柔らかくなる代わりにすぐ側にある骨盤の関節(仙腸関節)が動きにくくなってしまいます。股関節ばかりが柔らかくなると、仙腸関節が動く必要がなくなってしまうのです。本来の股関節の動きは仙腸関節との協力で行われるものなので、股関節ばかりの訓練はこの協力関係を崩してしまいます。

 ストレッチとはこのように一部分にこだわって行うと、全身の動きのバランスを崩すものになってしまい、やればやるほど体のバランスが崩れてしまいます。ストレッチとは関節を1つずつ区切って柔らかくする運動ではなく、体そのものを柔らかくするための運動です。1つの関節が「どこまで曲がるか」を意識するのではなく、体が全体的に気持ちよく伸ばすことを重視して行って下さい。

 こうした運動は「気持ちいい」という感覚で行う限りは全身が緩みやすくなるので行えば行うほど全身が「伸びる」ようになりますが、無理をして痛みに耐えながら行うと全身が緊張してしまうので、逆に全身が「縮む」ことになってしまいます。「気持ちよく」を大事に、これも目を閉じて丁寧に行うことでよい効果に繋がっていきます。