3月5日提出分 『やりたかったこと』

 
今回は長いこと通っていただいているTさんのことについて書きたいと思います。
 私が診させていただいた当初は、『脳梗塞の後遺症で首が回せなくなった』というところから始まりました。視診をしてみると、首だけの問題ではありませんでした。
毎日、晩酌をしているというほどお酒が好きな方で、食生活も好きなものを好きな時に好きなだけ食べて、運動はほとんどしない、仕事は不安定な足場で長時間首と左腕を固定したままやらなければならないものだそうです。
膝は両脚ともに痛い、頭痛がする、首も痛いなど、痛みとしてご本人が自覚しているものも多くありました。肝臓が腫れ、胃の緊張も強く、足と腕は捻れ、腎臓はガチガチ、胸部は呼吸が浅く見ているだけで苦しくなるほどのものでした。臓器は当然ほとんど正常には機能していませんでした。
 
 最初の頃はどうにもならなくなってしまっている臓器の機能回復を集中して行っていきました。しかし、ちょっとやそっとでどうにかなるものでもなく、Tさんからも『本当に治るのか不安だ』と言う声を何度か聞きました。それでも、ご本人の自覚していた痛みが施術を重ねるごとに一つ一つ消えていくに連れ、信頼していただけるようになってきました。
 身体の感覚は全くと言っていいほど分からなかったTさんが、『これはこういうことですよね?』と逆に質問をいただくくらいまで回復していく姿を見ているのは嬉しかったです。
 これまでの経過の中では、溜まっていた身体の疲れが出るようになり、何度か大きな風邪を引いたり、感覚が戻るにつれ別の部分に痛みが出たりして、辛い時期があったと思うのですが、『治りたい』という気持ちの強さを感じたので、私もそれに応えなければと試行錯誤しながらも何とかここまできました。

 Tさん自身も身体を壊してしまう日常生活の要因を出来る限り直していこうと努力されていました。
今では、ご自身が初めの頃に感じていた痛みはなくなり、首も普通に動かせるようになり、腹部もだいぶ強くなってきました。病院で検査を受けたそうですが、異常はなかったそうです。
 そこで、これまでずっとびくともしなかった腹部から首にかけての根強い緊張を、前回の施術で抜きました。ようやく一番やりたかった場所に手が出せました。何度もトライしましたが、そこだけは何がなんでも動こうとしなかったのです。
 他が安定してきたので、そろそろ大丈夫だろうと思って臨んだのですが、終わった後のTさんの姿勢がこれまでに見たことのないものに変化していました。立位を見て、途切れていた循環が回復してくるとこんなにも身体が力強くなるのだなと私自身も正直驚きました。Tさんも驚いていました。

身体は力むことでしか自らを支えられなくなると、正常な循環を失っていきます。足から頭にかけて見ていくと、下から崩れていったもののダメージが上にいくほど複雑で強固になっていくのが分かります。力むパターンが出来上がると循環もそれに合わせて作られます。
立つこと、座ること、動くことに合わせて筋肉も内臓も動いていかなければなりませんが、力みの入った身体に合わせた循環というのは、それらの動きについていくことが出来ません。しだいに栄養状態も悪くなり、身体全体に力強さがなくなっていきます。
循環が正常な状態に回復されていくことを目的とすると、下(足部・腹部)から施術していき、徐々に上(胸部・手・頭部)へ移行していくのがいいかと思います。下から治るパターンが入力されていることで、上体の循環も手助けしてくれるからです。