治療レポート Oさん
この方は、去年の冬頃からの来院の患者さんです。愁訴は左腕の挙上障害でその他に不定愁訴は山盛りでした。来院当初は精神病院に入院していてそのまま病院から通うというスタンスでいらしてました。
腕もさることながら、その他の身体の緊張もすごい。それでも、入院して普段の生活から切り離されたことによりある程度の呼吸の苦しさ、不眠、パニックなどの症状もだいぶ治まってきていたそうですが、やはり普通の身体ではないように感じました。実際に診察に入っても、視診の段階でそわそわしていて、うつ伏せは無理、どの姿勢をとっても腕が痛むという状態、上げる以前に僕が腕に近づくだけで痛い・・・正直どうしようかと思っていたのですが、ちょうど同時期に逃げないというテーマをもって施術にあたっていたので、一番痛くない姿勢(横向き)で背部からとにかく緩めていきました。もちろんどこ押しても痛い・・・効率も何もあったものではなかったように思います。
今思えば、どこからやっても同じだったと思います。拙い説明と稚拙な施術の組み立てに予感がするというだけで、良く付き合ってくれたと思います。本当に牛歩のような治療でゆっくりと溶けるように治癒していきました。僕は毎回ヒヤヒヤでしたが。そして、身体は少しずつ緩みと温度と力を取り戻していき、冬なのに湯たんぽがいらなくなったとか、お腹が動くのがわかるとか、息が吸いやすい、眠くなったとか、一つ一つに本人より僕が驚いたように思います。
しかし、腕の挙上だけが改善が上手くいきませんでした。どうしても肩関節の可動域がある程度のところで、止まってしまうのです。そこで僕は、肩関節は構造上腕を45度以上挙上するには、肩甲骨と鎖骨の付随した動きが不可欠で、その両者の動きが回復されないためにそのあたりの可動域のところで制限がかかっているのではないか?と考え、施術していきました。実際に、顎から鎖骨までの胸鎖乳突筋のラインが緊張していて、鎖骨の制限が起きているようでした。顎から頭蓋にかけてと施術と、大円筋、小円筋を中心に肩甲骨付近緊張の解除、胸筋の緊張の解除、鎖骨の動きを誘発するように少しずつ腕から回旋させていく操作などを行なっていきました。施術5〜6回目あたりからシャンプーが出来るようになったと言ってくれて、少しずつ握力も戻ってきたようです。本当にヒヤヒヤでした。
しかし、まだ完全に挙上が出来るようになったわけでは無く、腕の違和感は増してきていました。回復期には、その緊張を強く感じる時がありますが、まさにそんな感じでした。最後の最後まで残ったのは、顎の緊張と前腕の外旋が上手くいかない所でした。彼女は病気になる前に10年以上も裁判をたった一人で戦っていて、その後発症したそうです。この二つの緊張はその当時自分を守る最後の砦だったのではないかと思い、ここが良くがんばってくれたのだねと伝えました。本人もそう思っていたようでした。その当時の身体はそこを犠牲にがんばってくれていた訳で、それ自体は悪いことではありません。ただ、余りに犠牲にし過ぎた身体は元に戻ることが出来なくなってしまっていて、それが問題なのだと思います。痛いからと言って、身体に敵を作る必要は無いのです。
しかし、治療は完全に行きづまりました。テクニック的なことはもうほとんどやりつくしています。説明もゆっくり治っていくとしか言えず、ああ、このまま諦められたらどうしよう・・・と内心落ち込んでいました。そんな状態を見かねたのかどうかわかりませんが、腕の回旋をモーションパルペーションで診ていると、彼女の方から、なんかそれ続けたら動きそうな気がすると訴えて来ました。もうやること思いつかないので、「あ、そう?
じゃあ、しばらくやってみよう。」と動かしていました。しばらく彼女の訴える状態に従うまま動きをつけていると、なんと動いてきたのです。その時にハッと気が付きました。それは今までは自分の感覚でしか治療を考えていなかったということで、最後に残ったのは相手の身体に聞かないとわからないものだったと言う事です。つまり、彼女自身が過去に作った暗示のようなもので縛られていて、そこの関節は動かないと無意識に決めてしまっていたのです。それを彼女の予感を頼りに忠実にやっていくことによって少しずつ動くという認識が取り込まれていったのだと思います。実際に、その日の間にかなりの改善を見せました。
自分の感覚や知識などで、その人を推し量れることなど皆無に等しく、人と接する上で一番大切な、相手の事を思いやると言う事を忘れて、ただ独りよがりの治療をしていたのだと考えさせられる治療でした。彼女に感謝です。